『日本の官能小説』『吉原事典』

昨日は読書二冊。

一冊は、永田守弘著『日本の官能小説」(朝日新書)。

マッカーサーが厚木飛行場に降り立つ場面からはじまる本書、
戦後の日本の性文学が、闇市と食糧難、ビートルズや大阪万博、
ロッキード事件、あげまんブーム、ベルリンの壁崩壊、などの
時代風景と絡め合わせて紹介されている。

作品、作家はジャンルに囚われない。
ほんの一部だけ挙げると、『肉体の門』『ファニー・ヒル』、
『奇譚クラブ』『美徳のよろめき』、川上宗薫、団鬼六、宇能鴻一郎、
現代の奇才と登場しはじめた女性作家たち。

私も、『指づかい』(幻冬舎アウトロー)で、
女の情念を描く作家として紹介されていた。

そして、帯では『ドミソラ』(幻冬舎)が、
『四畳半襖の下張』『チャタレイ夫人の恋人』『きんちゃく日記』
『太陽の季節』『聖泉伝説』など、
時代の名作と並んで、挙げられている。
なんて光栄なこと・・・!

当時の社会の闘い、ときに検閲の憂き目に遇いながらも、
信じた表現をやるしかない人々のエネルギーがはち切れている。
性の視点で描かれた大歴史書です。


二冊目は、永井義男著『吉原事典』(学研M文庫)

資料として、まずは必要な箇所だけ拝読させていただくつもりが、
図説入りの吉原の様子と、活き活きとした人々の描写に
ぐいぐい惹き込まれた。

吉原は二代将軍秀忠の時代につくられた公許の遊郭。
いったん移動した後の新吉原は、敷地20767坪、
時代の変遷もあるが、およそ一万人が生活し、遊女は約三千人いたという。

豪奢で工夫を凝らした妓楼のつくりはどのようなものだったのか。
客はどのように遊女を買うのか。その値段は。
そこで商売をする人たちの生活や食べ物、娯楽は如何なるものか。

いちばん興味を持った遊女たちの人生。
江戸時代はほぼ100%が性病、あるいは結核に罹患し、
20代で命を落とす遊女がほとんどだったという。

また、ごく稀に身請けされたり、年季が上がって吉原から出ても、
病気のために30前後で亡くなる女性も多かったそうだ。

それに元花魁を妻や妾にするのは旦那方の自慢ではあったが、
彼女たちは家事が一切できず、世間の常識にも疎く、
吉原時代に懸かった病気のせいで子供をつくることも難しく、
よほど身の回りの世話をつかせるような裕福な者とでないと、
結婚なり妾生活も簡単ではなかった。

そして生活のために、吉原の下級妓楼に雇われたり、
市中の違法遊郭、岡場所に流れてもいく女性も多い。

だけど、やっぱり若い女の子たちの世界。
彼女たちが張り店の合間に双六や歌に興じ、
たまに妓楼の外の大きな湯屋に連れ立って行き、
帰りにお菓子を食べて、禿たちの髪を結ってやり、という賑やかで楽しそうな姿は、
いまの女の子たちと変わらず、黄色い声が聴こえるようだ。


淡々と事実を重ねながら、たまに意見を差し込む著者の、
彼女たちへの眼差しがあたたかい。
吉原内で働く人々や客たちに対しても、残酷な現実も映し出しつつ、
享楽の、夢の世界に生きる人間の愛嬌と信念を朗らかに描いている。

ネタバレのように長々と書いたけれど、以上はごくごく一部。
まだまだ奥深い吉原が書かれていますので、
興味のある方には、ぜひ手に取っていただきたい。

読んでよかった。
彼女たちの人生を、自分自身も含めて真っ直ぐ見つめる眼を持つ作家でありたいと、
改めて書く方向が尖りだした。
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